石油はドルでしか買えない。この構造が、いわばドルを「石油兌換紙幣」に変えた。この実態から「ペトロダラー」とも呼ばれる。
「ガソリンには補助金が出ているのに、なぜ値下がりしない」という声をよく聞く。しかし、前述の通り、補助金は、仕組みとして、政府目標価格水準で安定させるのが狙いであり、もともと価格の引き下げは目的ではない。そもそも、2021年秋の総合経済対策で、コロナ禍からの回復途上にある経済において、原油価格高騰が国民生活の重荷になる事態をふせぐための「激変緩和対策」として、緊急的に措置されたもので、小売価格引き下げを目的にしておらず、これ以上の上昇防止・価格抑制を目的とする補助金である。その意味では、補助金は、小売価格の安定という目的通り、趣旨に沿った役割・機能を果たしてきた。
世界経済の不均衡はドルと石油を抜きに語れない。 石油消費国2位の中国は ..
しかも、補助金は、石油製品をガソリンスタンドや燃料店等に卸している石油元売会社・輸入商社等に、卸価格引き下げの原資として、支給されており、卸価格の引き下げによって、間接的に小売価格抑制を図っている。卸価格や小売価格の値動きを見る限り、石油元売・流通業界とも、この制度趣旨に忠実・協力的であるといえる。補助金開始当初、石油元売会社に対して批判的な報道・論評も見られたが、最近では聞かれなくなった。確かに、石油市場は完全自由化、価格規制は全廃され、小売価格の設定は流通事業者に委ねられたが、本制度は円滑に機能している。
したがって、ウクライナ戦争直後やハマスのイスラエル侵攻(2023年10月7日)直後の原油価格上昇期、あるいは2022年下期の急激な円安進行時にあっても、円建て原油輸入価格水準に関係なく、国内石油製品価格は安定的に推移してきた。逆に、原油価格が低下しても、補助金は減額され、小売価格は下がらない。そのため、現在の補助金制度が続く限りは、国内価格は横ばいが続くものと考えられた。
金本位制が崩れたニクソン・ショック後、基軸通貨としてのドルの礎を築いたのは、原油輸出をドル建てで行う「ペトロダラー」体制だった。
補助金開始後、2022年下期から23年5月までは政府目標価格168円/ℓ水準で、23年10月から現在までは175円/ℓで横ばいになっていることが分かる。リッター当たり補助金支給単価は、資源エネルギー庁が目標価格になるように毎週改定している。基本的に、前週の原油価格(ドル建て)とドル円為替相場を基準に、前々週との変動幅に応じて、原油輸入価格が上昇すると補助金を増額、低下すると補助金を減額している。
補助金開始以前、国内石油製品価格は、原油価格水準に連動して決まっていた。ガソリン・軽油・灯油のスタンド店頭小売価格は、原油輸入価格に、ほぼ平行して変動していた。原油輸入価格と灯油価格の差は、精製費・備蓄費・運賃・人件費・販管費・利益等の石油元売・流通の国内コスト・マージンであり、灯油・軽油・ガソリン間の価格差は、ほぼ税金の差と考えて良い。
現在の原油価格は、ドルベースでは第一次・第二次石油危機以上の水準であるが ..
ただ、元売会社等は、毎週の補助金単価改定と同時に、これを反映した卸価格改定を実施しているが、ガソリンスタンドや燃料店は小売価格をすぐに改定することは無理である。高値で仕入れた在庫が残っている間は、小売価格を値下げすることはできないし、そもそも、月決めの掛け売りしている小売店も多い。そうしたタイムラグに伴う補助金と価格のズレは当然に発生する。また、補助金は0.1円/ℓ単位で支給されているが、毎週提示される卸建値は0.5円/ℓ単位(但し、補助金反映後・補助金込みの元売等から小売への卸売請求金額は0.1円/ℓ単位)、小売価格は1.0円/ℓ単位での販売になるため、金額の切り上げ・切り下げ時にもズレは発生する。さらに、資源エネルギー庁の補助金算定基準となる原油価格と元売会社等の卸価格の算定基準となる原油価格にもズレがある。こうしたズレが重なるため、ガソリンでいえば、政府目標価格175円/ℓ(計算上、正確には174.8円/ℓ)前後で、小売価格は微妙に上下してきた。
ロシアが天然ガスで仕掛けたエネルギー戦争に震撼しているのは、欧州だけではない。日本は改めて石油危機から始まったLNGの調達の戦略見直し、ミサイル攻撃を受ける可能性のある原子力発電所の抜本的な見直し、ドイツが再考しはじめた石炭火力発電所の廃止期限延長、アンモニアなどCo2を排出しないクリーンなエネルギーの早期実用化など、国のエネルギー政策の根幹を見直すときに来ているようだ。
の、原油市場への投資マネーの滞留が油価の下落余地を限定的なものに留
2023年秋から、ガソリン・灯油・軽油・重油等の石油製品の国内価格は、ほぼ横ばい、安定を続けてきた。ガソリン小売価格(全国平均、資源エネルギー庁調査)は、政府目標価格である175円/ℓ前後の水準で推移している。確かに、補助金支給開始(2022年1月)以前、ウクライナ戦争開戦(2022年2月)以前の水準と比べると高止まりではあるが、安定的である。いわゆるガソリン補助金「燃料油価格激変緩和補助金」の効果である。補助金がなければ、12月第1週には191.1円/ℓ(資源エネルギー庁ガソリン予想価格)程度になっていると見られる。
本稿では、わが国の物価対策として、今後の展開が注目される、「燃料油補助金」を中心に、「トリガー条項」の凍結解除、「旧暫定税率」等について、解説するとともに、補助金終了後には、わが国石油製品価格に大きな影響を与えるであろう、今後の原油価格について、米国大統領選挙を踏まえ、考えてみたい。
1973年12月8日号「石油危機のすべて!!!」 PDFダウンロードページはこちら(有料会員限定)
「オイルマネー」という言葉にそもそも厳密な定義は存在しませんが、一般的に、産油国が原油輸出によって得た資金のことを広義のオイルマネーと呼び、そのうち産油国政府による経常的な支出や開発投資などを差し引いて残った資金、つまり外国などへの投資が可能な資金のことを狭義のオイルマネーと呼んでいます。
また、日本では「オイルマネー」ですが、欧米では主に「ペトロダラー(Petrodollar)」と呼んでいます。ダラーとはドルのことであり、原油取引がドル建てで行われることに由来します。それでは原油取引はなぜドル建てなのでしょうか。
実は、原油取引がドル建てでなければならないという国際的な取り決めのようなものはありません。原油取引の歴史的な経緯を背景に、慣習上、ドル建てでの取引となっているだけなのです。歴史的な背景としては、①1960年代までは米国を筆頭としたメジャーズ(総合石油会社)が原油取引を支配していたこと、②80年代前半に原油取引のスポット取引が拡大するとともに、価格変動のリスク回避のために先物取引も始まり、その先物市場に主として米国市場が利用されたこと、などがあげられます。また、③世界最大の石油消費国が米国であることも要因と考えられます。
は、原油価格は 1 バレル 25 ドルであったとして、100 ドル
先日の「総合経済対策」(2024年11月22日、閣議決定)で、「ガソリン補助金」は、規模縮小の上、継続と決まった。併せて、「ガソリン減税」については自動車関係諸税全体の見直しに向けて、検討とされた。補助金縮小で、ガソリン等の石油製品価格は、12月と1月に、5円/ℓ程度ずつ2段階で値上がりすることになる。
2000 年に入って原油価格高騰が持続し、30 ドルを大きく上回るようになると、石油消費 ..
ロシアが産出する資源は天然ガスや石油、石炭にとどまらず小麦や肥料、鉄鋼製品、アルミニウム、ニッケルなど多岐にわたり、それぞれ世界シェアで上位を占める。ロシアの資源なしの世界のグローバルサプライチェーンは成り立たないとさえいえる。
ざり物が多い関係で、日本など石油精製技術が非常に高い、ローコストで石油精製ができ
資本取引を規制する人民元や、国際通貨ではないインドルピーが一足飛びにドルに匹敵する国際決済通貨になる可能性は極めて小さいが、国際通貨の歴史に詳しいシグマ・キャピタルの田代秀敏チーフエコノミストは、3月24日に国際通貨基金(IMF)が公表した米経済史の泰斗アイケングリーン氏らのリポート「ドル支配のステルス(見えない)侵食」に着目する。
問題は、補助金終了時点のドル建て原油価格、為替レートの水準である。現状 ..
グローバル化によって国をまたがるモノの売り買いに使われるドルの存在感は高まり、米国の「ドルを使わせない」という制裁も力を増した。逆に制裁がドル離れを加速させ、ドルでつながったグローバル化の鎖が断ち切られようとしている。グローバル化を推し進めた西側諸国はいま、「両刃の剣」を突きつけられている。
石油はドルでしか買えない、だからアメリカは強か った いつか人民元の時代が来る?:朝日新聞GLO..
すなわち、「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」(24年11月22日閣議決定)では、終了に向けた段階的対応として、12月19日から補助金を5.1円/ℓ削減、さらに、25年1月15日から5.1円/ℓを二段階で削減するとし、新たな基準価格をガソリン小売価格(全国平均)185円/ℓとしている。したがって、1月下旬以降には、灯油・軽油・重油を含めて、石油製品の小売価格は、現状より10円/ℓ程度上昇することになるものと思われる。
[PDF] 米国における石油ガス産業の 脱炭素への取り組み状況
さらに、今回の対ロシア制裁が「ドル離れ」を加速させるだけでなく、ロシアや中国、中東諸国と、欧米などの西側諸国に世界を分断すると、柴田さんは予想する。「ロシアなどが保有する石油やレアメタル、小麦、肥料といった重要資源の取引で使われる通貨はドルにかわって人民元となるだろう。それは、ペトロダラー体制によるドル支配から、重要資源・人民元体制への移行を意味する」
[PDF] カスピ海産油国の石油依存脱却と 産業多角化への取り組み
ロシアが仕掛けた通貨戦争は、このドルの特権を維持するペトロダラー体制に風穴を開ける可能性がある。
1月3日の米WTI原油先物価格は1バレル=64ドル台に急騰、昨年9月のサウジアラビア石油施設攻撃直後の高値(63ドル後半)を超えた。 ..
ロシアも石油や天然ガスの代金をドルで受け取ることが多かったが、ドルを減らして人民元やルーブル、ユーロの割合を増やしている。蓮見教授は「制裁でSWIFTから締め出されたロシアはこれまで以上に人民元決済やルーブル決済を増やそうとするだろう」とみる。
原油、夏場に高値50ドル見通し JOGMEC 野神氏・関本氏に聞く
現状では、「出口」と表現されているその先の段階的な削減方法・終了方法、終了時期は明らかではないが、予想価格が185円を切った場合は、補助金はゼロとなる。ちなみに、原油価格が下がった9月第4週には予想価格は184.3円/ℓとなった例があり、新しい補助金の計算式によれば、その場合には補助金はゼロである。その意味で、今後の原油価格(ドル建て)と為替の水準が、補助金終了時期と終了方法(いわゆる出口)を決める上では、大きな要素となることが予想される。
限定的でしかない。原油価格が下がったことで、米国のガソリン需要は増え ..
食糧・資源問題研究所の柴田明夫代表によれば、その規模は、「世界の原油生産量の内の半分がドル建てで輸出されると見ると全産油国の石油輸出収入、すなわち“ペトロダラー”の規模は8000億ドル以上。世界の石油輸出量の4割強は石油輸出国機構(OPEC)だから、原油価格が90ドルを超えた11~13年のOPECの石油収入は1兆ドルを超えていた」と試算する。これだけ巨額のドル需要があれば、為替市場で極端なドルの下落は起こりにくい。
ただ、イスラエルが来年の米大統領選を控えたバイデン政権の介入で和平協議を本格化させるのか疑問でしかない。 ..
中国は08年のリーマン・ショックの後、中央銀行の人民銀行総裁がドル基軸通貨体制に異議をとなえ、外貨準備としてドルをためこむ従来の方針を転換。18年には人民元建ての原油の先物市場を上海につくった。
[PDF] 最近の石油価格高騰とアジアにおけるエネルギー需給の課題
世界最大の貿易商品である原油をドル決済とすることで産油国から米国債として本国にマネーを還流させるペトロダラーのシステムだ。産油国は石油収入として得た巨大なドル収入を英ロンドンなど世界中のオフショア金融市場を通じてドル建て金融商品で運用しており、海外保有が7兆ドル以上に達する米国債の最強の買い手となってきた。